後天性免疫不全症の英語表記AcquiredImmunodeficiencySyndromeの頭文字を取ってAIDS(エイズ)と呼ばれます。HIVウイルスに感染した後、期間を経て免疫不全が進行し、治療しなければ死に至る恐ろしい疾患です。
今回はエイズの症状や原因や治療法について解説いたします。
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エイズとはどのような症状の病気なのか?
人の免疫の働きに関わるTリンパ球やマクロファージなどの重要な細胞に感染するウイルスがHIV(Human Immunodeficiency Virus=ヒト免疫不全ウイルス)です。HIVに感染すると、数年から数十年にわたる潜伏期間を経て免疫力が低下した後、普段は感染しない病原体にも感染しやすくなり、様々な病気を発症します。この病気の状態をエイズと呼びます。具体的には厚生労働省が定めるエイズ発症の基準となる23の合併症「エイズ指標疾患23種」に指定された疾患のいずれかを発症した時点でエイズと診断されます。何もせずに放置し続ければ死に至ることもあります。
急性期(ウインドウピリオド)
感染直後の数か月間は大量のウイルスが血液中を循環し、他人への感染の危険性が高い時期です。感染後1〜2週間程度で全身のだるさや発熱、関節の痛みやリンパ節の腫れなど、一般的な風邪やウイルス感染症に似た症状が現れることがありますが、通常は数日から数か月で血液中のウイルス量が低下し、症状が治まることがほとんどです。
この、ウイルス量が低下するまでの時期を急性期と呼びます。急性期に症状が出ない場合もありますが、他人への感染力の高さは変わりありません。
なお、体内でウイルスに対する抗体ができるまで時間がかかるため、急性期には検査で陽性反応が出ないことも多いので注意が必要です。
無症候期(潛伏期)
急性期の症状が治まった後、数か月から十数年は血液中のウイルス量も低下し、無症状のまま免疫力が低下していきます。この時期を無症候期ないし潜伏期とよびます。無症候期のウイルス値は感染力の強さと病気の進行の速さを示す指標として治療の目安に活用されます。また無症候期に、自己免疫性の疾患に似た症状や帯状疱疹などを繰り返し発症する場合もあります。
発症期
病気の進行とともに、何か月も続く風邪によく似た症状などが見られるようになることがあります。放置すれば最終的には免疫不全に陥り、健康体であれば感染しないような病原体による感染からニューモシスチス肺炎(かつてカリニ肺炎とよばれていたもの)やカポジ肉腫、悪性リンパ腫、悪性腫瘍、がんなどの合併症を引き起こし、放置すれば死に至ることになります。また、女性は子宮頸がん、男性同性愛者は直腸がんにかかりやすくなります。
免疫の目安となるCD4陽性リンパ球数の減少や急激な体重減、合併症の症状などが現れるとエイズ発症と診断されます。
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エイズはどのような原因で感染してしまうのか?
後天性免疫不全症では、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)が白血球内の免疫細胞(CD4T細胞やマクロファージ)に感染し、自らを複製していくことで免疫細胞を破壊していきます。免疫力が低下していくため、放置すれば発症率・死亡率ともに高い病気ですが、HIV自体は感染力が弱く、感染経路も限られています。
リンパ液や精液、血液や母乳などの体液を介して感染するため、主な感染経路は性感染、血液感染、母子感染の3つです。
性感染
異性間、同性間での性交渉で、HIVを含んだ性分泌液(精液、膣分泌液)が膣や口腔粘膜、直腸粘膜など、からだの粘膜から吸収されることで感染します。
HIVの感染経路としてもっとも多いのが性交渉であるため、HIV感染症は性感染症のひとつでもあります。コンドームを正しく使うなどで、性交渉を通じた感染の可能性は限りなく低下しますが、絶対に安全な方法はありません。
血液感染
HIVを含んだ血液が傷口や粘膜に直接触れたり、注射針を使い回したりした場合に血液を介して感染します。
輸血による感染が一時期問題視されましたが、日本国内では輸血用の血液や血液製剤については安全体制がとられています。注射針の使用についても日本国内では医療現場で使い回しすることはありません。
ただし、国によっては、医療現場で注射針の使い回しをしているところもあるので、海外で輸血や注射を受ける場合には注意が必要です。
母子感染
HIVに感染している母体を通じて妊娠中や出産時の周産期、授乳時などにこどもへ感染することがあります。母体の感染が事前に判明していれば、事前の母体の定期的なフォローと抗ウイルス薬使用に加えて帝王切開や出産児への抗ウイルス薬使用など適切な医療措置によってこどもへの感染の危険性をかなり下げることができます。
エイズの検査の受け方や治療方法は?
エイズ検査の受け方
エイズの受診科は内科ですが、検査だけなら地域の保健所や検査所などで無料で受けることができます。プライバシーも配慮されており匿名で受けることができますので、心配な方はぜひ受けるようにしましょう。現在では、HIV検査の感度はとてもよくなっているため、HIV感染直後の初期(ウインドウピリオド)でなければ、基本的に採血で陰性と出ればHIV感染症の可能性はまずありえません。
献血はエイズ検査の代わりになる?
献血をすれば、その際にエイズに感染していた場合に判るのではないか?と考える方がいるようですが、エイズ検査目的の献血は日本赤十字社が固く禁止しています。確かに献血で集められた血液はB型肝炎、C型肝炎などと一緒にHIV検査を行っています。しかし、鋭敏な検査法でも感染力を持つ血液が検査で検出されない時期があるため、この時期の保菌者が献血をしてしまうと、輸血を受ける患者さんへのエイズウイルス感染が防げなくなってしまうためです。事前の問診に正しく回答する義務もありますし、仮にHIV検査で陽性反応があった場合でも、日本赤十字血液センターは当事者へ検査の結果を通達しませんので、くれぐれもエイズ検査代わりに献血をするという迷惑行為は決してしないでください。
エイズの治療法
HIVは体内で何十年も寿命をもつリンパ球にも感染するため、からだの中から100%完全に消し去る治療法というのは残念ながらまだ発見されていません。
しかし、逆転写酵素阻害薬のAZT(アジドチミジン)、3TC(ラミブジン)やプロテアーゼ阻害薬のインジナビルを組み合わせた抗ウイルス薬の多剤併用療法を用いることで、HIVの増殖を抑制し、免疫細胞の破壊も止まるため、免疫力の維持・改善も多くの症例で見込めます。
かつては死に至る病と恐れられていたエイズも、現在ではきちんと治療を続けることで長期の社会生活が可能な「慢性の感染症」と位置づけられているのです。
ただし、治療を施さないと、確実に免疫力を低下させ、死に至る病でもあるため、早期の発見・治療が非常に大切です。
まとめ
エイズは、以前は発病すれば確実に死亡する不治の病でしたが、現在は薬物療法により予後は改善しています。性行為、輸血、母子感染という三大要因を認識し、不安がある場合は地域の保健所で検査を受けるようにしましょう。
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